一歩踏み出すたびに、足元からさくりと音がする。
 足音が沈む。雪が体の重みで沈む。足元を取られながら、ひとり、前に向かって歩く。
 黒いコートのポケットに両手を入れて。


 肺まで凍らせるような寒気を吸いこんで眼を閉じる。その美しい瞳を隠す。
 懐かしい空気。厭わしい感傷。
 それも全て、今日で終わる。


 一歩、また一歩。
 さくりと雪が沈む。
 足跡は一人分。


 掌にはまだ、命を奪った感触が残っていた。