「これであなたは千年の命を手に入れられた。」

「やっと千年か、いったいセルティと永遠に生きるために、私はあと何人殺さなければならないんだろう?」結局ろくに使う事のなかった手術器具を片づけながらそう答えると、死神はうすく微笑んだ。僕はそれに同じだけ口角を持ちあげて応える。ある夜の事だった。駆けこんできた患者が死んだ。私が何をしたところで死んでいた客だった。息絶えた死体を前に何も感じないでいると、彼女がそっと現れて告げる。「あなたが殺したこの人間の寿命は、この時よりあなたのものに」。死神はそう囁いた。僕はぱちりと瞬きをして聞く。「それはこの一度きり? それとも殺すほどに寿命は増える?」今度またたきをしたのは死神のほう。長いまつげをぱちりと揺らしてふふと笑って言う。「あなたが望むのなら」。そう。俺が望むように。セルティと一緒に死ねるように。セルティと一緒に生きるように。そのために。俺は今日も、ときどき、患者を殺す。何のためらいもなく。何の意図もなく。愛のために。愛する人のために。愛する人が知ったら傷つくだろう事を平気でして。

そういえばと死神は笑って尋ねる。
「私の姿はあなたが死をどうとらえているかによって変わる。あなたの眼に私はどう映っているのです?」
わたしは笑って答える。
「僕のいとしい恋人の姿に。」

それ以外ではあり得ない。