「そうやっていたずらに命をのばしてどうするおつもりです」

そう言って現れた死神はいささか呆れた顔をしている。俺は笑って言う。「どうもしないさ」。そう、どうもしない。俺にとっては命をのばして何かをするのが目的ではない。命を伸ばすことが目的なのだ。より正確に言うならば、命を伸ばして、この女に会う。それだけが今のところの俺の生きる意味なのだ。だから誰かの命を奪う。誰かの命を奪ってはその分だけ寿命を延ばし、そしてそのたびに俺に会いに来て小言を言う死神を見るために。死神は困ったように言う。「私に会いたいのなら、私の中で永遠にお眠りになられればよろしいのに」。つまり死ねという事。俺はそれに嗤って言う。「それではお前の顔を見ることができない」。そんなに美しいのにもったいないよ。そう答えると、死神は、今度こそ笑った。「あなたは死に憧れていらっしゃる」。だから実態のない私が美しく見える。うん。そうだろう。俺はたぶん、死ぬことを夢見ている。けれどそれは死にたいというわけじゃない。知りたいだけ。死の一瞬に何が見えるのかを知りたいだけ。高みから人の背を突き落とす時、俺はそれを垣間見るような気がする。そっと押したその感触から、その高さから、その悲鳴から、俺はお前の真の姿を目の当たりにする気がする。憧れている。死に。そしてお前に。

うつくしいお前に会うために俺は人を殺す。
死神は明日も俺に会いに来るだろう。