天気の悪い日になると、何も言わずにが傍にいるようになったのはいつからだったか。そんなに昔からの事でもないはずなのに、ずっとそうであったかのような気さえする。こめかみに指先を当てて少しだけ考えていると、やわらかな声がそっと響いた。

 「痛むの?」
 「いや。今日はそうでもない。」
 「そう。」

 会話はそれきりで、はまた手元の本に目線を落とす。ぱらりとページをめくる音。それが一定のリズムにならないのは、気にいった文章があると繰り返し読むからだという事を、赤司はもうとっくに承知していた。すこし呑み込むのが難しい文章にあたれば眉をしかめるということも、次のページに指先をかけて本を読むということも、知っている。

 悪天候の日には頭が痛む。中学生のころにはすでに慢性化していた病だが、この秘密を知る者は多くはない。付き合いの長いキセキや、目ざとい実渕でさえ、赤司の不調を知らないことだろう。赤司とて人に察せられるほど隠し事が下手ではないつもりだったが、しかし。いつからかは、気付いていた。

 「寝てたら?」

 紙がこすれる音の合間に、ふたたび声が届く。あの時も同じ言葉を言ったな、と、赤司はふとほほ笑んだ。あの時、何を言っているのか解らずに眼をしばたたいた赤司に対して、は何でもないように続けたのだ。だって、頭、痛むんでしょう。ほんとうになんて事のない口調で。

 「問題ないよ」
 「ならいいけど」

 は多くを語らない。いままで頭が痛む日に誰かにそばにいてほしいなど思った事もないけれど、に出会ってから赤司はその意味を知った。曇りの日を待ち遠しい、と思うまでは行かないけれど、悪くないな、と感じるぐらいには。

 「
 「なあに」
 「ありがとう」
 「いいえ」

 赤司はそっと目を閉じての華奢な肩にもたれかかった。は何も言わないでいる。
 ふたりのまわりではただ、が立てるふぞろいな律動だけが響いていた。