きっとこの存在は、いつか自分の首を絞めることになるだろう。新宿の情報屋、折原臨也の“好きな女性”。洩らすつもりなど毛頭ないし、隠し切れない自分でもないつもりだが、もしもどこかで知れたら。自らも彼女自身も平気ではいられない。自分にパルクールを教えた。ナイフの扱い方や身のこなしも。身をもって彼女の強さを知っていても、だからといって常に安全でいられるわけじゃない。それでも。消しきれないリスクを抱えてでも、なお。
解っている。何度も繰り返した自問自答だ。一時の感情じゃないのか。いつもの気まぐれ。明日目が覚めたらこんな激情ですら、どこかへ跡形もなく消え去っている。そうだろう? お前の愛など何よりも酷薄な嘘なんだから。――すべてを奪い去りたい、呼吸ですらも、その拍動も、すべてを自分のものにしたい、目線ひとつ、微笑みも、涙も、すべての感情の向く先が自分であればいい。そんな想いですら、いつもの嘘、いいや、だったらこんなにも迷わない。今まで誰にも抱いたことなどなかった。愛を切り売りして、そんなくだらないものに振り回される他人を、まるで水槽の水面を好きなときに揺らすようにしては遊んだ。愛は臨也にとって金や嘘と同じ、目的のための手段でしかなかった。それなのに。 「滑稽だな、折原臨也」 ぎい、と椅子がきしんだ音を立てた。パソコンのモニタだけが暗闇の中で光を放つ。窓の下に広がるたくさんの人、人、人。誰もが恋をし、どうしようもないほどに相手や他人を憎んだり、かと思えば携帯電話の向こうにいる愛しい誰かの元へと帰るような街。この中にあなたもいるのだろうか。あなたも誰か、そう、自分ではない誰かに恋をし、そのせいで誰かのことを疎んだり、もしかしたら既に恋人と呼べる存在と体を触れ合わせては愛を確認しあっているのだろうか。 胸がちりと燃える。駆け巡る嵐を臨也は確かに耳の奥で聞いた。この恋は自らを滅ぼすだろう。確信していた。それでも戻れない。滅ぼしたとしても構わない。 あなたが迎え入れてくれるのなら。 |